脱藩
竜馬が行く
泥棒・寝待ちの藤兵衛は言った。
「旦那、あんたはだまされたね。
あの岡田以蔵さんという人はわるいお方じゃなさそうだし、
お父つぁんが死んだために江戸から国へ帰るというのもうそじゃなさそうだが、
路用がなくなってやむなく辻斬りをしたというのは、あれは下手なうそだ」
「ほう」
「大阪島之内の丁字風呂清兵衛という名高い家がある。
そこの娼妓でひなづる。おんなの名などどうでもいいが、
その女のもとでいつづけして路用をつかいはたしたはずなんだ。
あっしが見ただけでも、五日は丁字風呂にいた。
だから、旦那にもらった金で、いまごろは豪勢に風呂酒をあそんでるだろう」
「ほんとうか」
「うそじゃねえ」
「以蔵め、そいつは面白かったろうな」
以蔵の身になって笑いだした。
竜馬はうまれつき明るいはなしがすきな男だから、
足軽以蔵の陰気な話がやりきれなかったのだが、
いまの藤兵衛のはなしで救われたような気がした。
妙な性分である。
腹が立つよりも自分までが風呂酒を飲んで陽気にさわいでいるような気分になってくる。
司馬遼太郎「竜馬が行く」1巻より
岡田以蔵に騙されて、金も取られた竜馬・・・
怒りもせず、相手の気持ちになって陽気な気分になってしまう。
司馬さんが描いた竜馬像は、やっぱりいいね。
自分の幸せに全てを結び付けていくところ・・・
さすがだよなぁ・・・竜馬さん・・・なんて思った猛暑の昼さがり。

「旦那、あんたはだまされたね。
あの岡田以蔵さんという人はわるいお方じゃなさそうだし、
お父つぁんが死んだために江戸から国へ帰るというのもうそじゃなさそうだが、
路用がなくなってやむなく辻斬りをしたというのは、あれは下手なうそだ」
「ほう」
「大阪島之内の丁字風呂清兵衛という名高い家がある。
そこの娼妓でひなづる。おんなの名などどうでもいいが、
その女のもとでいつづけして路用をつかいはたしたはずなんだ。
あっしが見ただけでも、五日は丁字風呂にいた。
だから、旦那にもらった金で、いまごろは豪勢に風呂酒をあそんでるだろう」
「ほんとうか」
「うそじゃねえ」
「以蔵め、そいつは面白かったろうな」
以蔵の身になって笑いだした。
竜馬はうまれつき明るいはなしがすきな男だから、
足軽以蔵の陰気な話がやりきれなかったのだが、
いまの藤兵衛のはなしで救われたような気がした。
妙な性分である。
腹が立つよりも自分までが風呂酒を飲んで陽気にさわいでいるような気分になってくる。
司馬遼太郎「竜馬が行く」1巻より
岡田以蔵に騙されて、金も取られた竜馬・・・
怒りもせず、相手の気持ちになって陽気な気分になってしまう。
司馬さんが描いた竜馬像は、やっぱりいいね。
自分の幸せに全てを結び付けていくところ・・・
さすがだよなぁ・・・竜馬さん・・・なんて思った猛暑の昼さがり。
